舞台公演「ある光」制作委員会の設立に当たって
2011年の東日本大震災は戦後最大の自然災害であっただけでなく、多くの人の世界観を揺るがし、行動へと駆り立てた出来事でした。「自分が東北地方のためにできることは何か」を一人一人に真剣に考えさせ、それぞれが自分の立場でできることに懸命に取り組みました。NPO法人スターズアーツ(東京都港区、本宮透雄理事長)では、被災体験の語りに音楽などの演出効果を加え、伝承の効果を一層高められるよう、この13年間さまざまな方々のご協力を賜りながら模索を続けてきました。
あれから14年がたち、東北地方ではハード整備を主とする復興事業がほとんど完了しました。福島第一原子力発電所の廃炉の問題は残るものの、官民の関係者のご尽力により、社会は一定の落ち着きを取り戻すことができました。
それと並行して14年という歳月は、確実に忘却を招きつつあります。東北地方以外の多くの人々にとって、東日本大震災はテレビで見た映像にとどまり、その記憶も大きく薄れてきています。また震災後に生まれた世代が、社会に占めるウエートも年々増えています。南海トラフ地震による新たな津波被害が迫る中、東日本大震災を経験していない地域や世代に、一層効果的に経験を伝え、被災に備えてもらうための伝承手法が強く求められています。
こうした中で私たちは、漫画「ある光」に出会いました。「ある光」は日刊建設工業新聞社の記者・阪本繁紀さんが制作した長編漫画です。福島県いわき市を舞台に、同市に住む高校生の視点から、東日本大震災を追体験していく内容となっています。入念な取材に基づいて正確に史実を伝えており、幅広い世代に向けた有効な伝承ツールになると考えました。それにもまして、主人公が被災を乗り越え、再び前を向いて生きる姿から、「生きていく」ことへの強い希望を感じさせる作品でした。
この作品を、スターズアーツのノウハウやネットワークを駆使して舞台空間で再現すれば、観客にイメージを思い浮かばせ、心情の移り変わりも含めた、被災の追体験が可能になるのではないか。そして主人公が再び前を向いて生きる様は、災害列島で生きる私たちにとっての世界への向き合い方に、何らかのヒントを与えてくれるのではないか。こうした期待から、劇作家・演出家の村上秀樹さんに脚本執筆を依頼したところ、ご快諾をいただき、舞台化プロジェクトが始動することになりました。
私たちは舞台公演「ある光」を、南海トラフ地震をはじめ今後予想される自然災害への備えとして、一つの「防災道徳」の形を発信する新たなコンテンツに仕上げたいと考えています。東日本大震災の発生から15年となる26年3月ごろの初演を目指し、現在準備を進めています。上演は東北地方(仙台市、福島県いわき市)や東京都内、和歌山県内などを想定しており、決まり次第ご報告させていただきます。
東日本大震災で被災された方々の思いを改めて胸に刻み、再度被害の最小化につなげるため、誠実に取り組みを進める所存です。何卒ご理解の上、ご指導・ご鞭撻を賜れますようよろしくお願いいたします。
2025年4月11日 舞台公演「ある光」制作委員会一同